強度行動障害への支援、危険回避と行動制限はどこで線引きするか
「これは仕方ない」で終わらせていませんか
強度行動障害のある方への支援では、目の前で自傷や他害、物を壊す行為が起きたときに、とっさに体を支えたり、危険な場所から離したりする場面が出てきます。こうした瞬間的な対応を「仕方なかった」の一言で片づけている事業所は、案外多いのではないでしょうか。
管理者やサービス管理責任者・児童発達支援管理責任者の立場からすると、現場のとっさの判断を頭ごなしに否定することはできません。実際に危険が迫っているときに、まず身の安全を守ることは必要な対応です。ただ、その対応が「その場限りの緊急避難」なのか、「日常的に繰り返される行動制限」になっているのかは、記録を見返さないと分からないことがあります。
同じような対応が毎日のように記録に出てくるようであれば、それはもう「たまたま起きたこと」ではなく、支援の在り方そのものを見直すタイミングだと考えたほうがよいでしょう。危険を避けるための関わりと、行動を制限する対応の境目は、現場の感覚だけで線引きするのが難しい部分です。だからこそ、事業所としてどう話し合う場を持つかが問われます。
危険回避と行動制限、何が違うのか
危険を避ける関わりと行動制限を分けて考えるときに、押さえておきたい観点がいくつかあります。
一つ目は「切迫性」です。今まさに本人や周囲の生命・身体に危険が及んでいる状態かどうか。二つ目は「非代替性」で、ほかに取り得る方法がなかったかどうか。三つ目は「一時性」、その対応が必要な時間に限られているかどうかです。この三つの観点は、身体拘束を検討する場面で使われる考え方として、多くの事業所ですでに研修の中で扱われていると思います。
強度行動障害のある方への支援を難しくしているのは、この三つの観点を毎回ゼロから判断しなければならない点です。同じ利用者であっても、体調や環境、その日の見通しの立ちにくさによって、切迫性の度合いは変わります。昨日は声かけで落ち着いた行動が、今日は同じ声かけでは収まらないこともあります。だからこそ、一度決めた対応方針を「これでよし」とせず、支援の記録を見ながら定期的に振り返る仕組みが必要になります。
ここで気をつけたいのは、「行動制限=悪いこと」と単純化してしまわないことです。切迫性・非代替性・一時性を満たしたうえでの対応であれば、それは必要な支援として記録し、チームで共有すべきものです。問題は、その判断をした人の頭の中だけで完結してしまい、ほかの職員が同じ場面に出会ったときに、違う対応をしてしまうことにあります。判断の基準をチームで共有できていない状態こそが、事業所としてのリスクだと言えます。
チームで話し合う場をどう設計するか
危険回避と行動制限の境目を、個人の経験や感覚だけに頼らず話し合うためには、いくつかの工夫が考えられます。
一つは、ヒヤリハットや行動記録をその日のうちに簡単でも残し、週に一度など決まったタイミングで複数の職員で見返す時間を作ることです。特定の場面や時間帯に同じような対応が繰り返されていないか、記録を並べて見るだけでも気づくことがあります。
もう一つは、判断に迷った職員が「これは行動制限にあたるかもしれない」と言い出しやすい空気を作ることです。強度行動障害のある方への支援は、瞬間的な判断を求められる場面が多く、後から振り返ると「あれでよかったのか」と迷いが残ることも珍しくありません。その迷いを一人で抱え込ませず、サービス管理責任者や児童発達支援管理責任者が「まず話してみましょう」と声をかけられる関係性が、行動制限の記録を曖昧にしないための土台になります。
また、支援の考え方や記録の残し方について、職員間で認識にばらつきが出やすい部分は、基礎的な知識を全員で揃えておくことも助けになります。当社の福ひろばラーニングでは、強度行動障害の考え方や身体拘束との違いについて、7分で読み終わるコースとして整理しています。集合研修の時間を確保しにくい事業所でも、すきま時間に受講できる形にしているので、まず知識の土台を揃える手段として使っていただけます。
話し合いの場を作るときは、正解を出すことよりも、判断の理由を言葉にする練習だと捉えるとよいでしょう。切迫性はあったか、ほかの方法は本当になかったか、その対応はどのくらいの時間で終えられたか。この三つを口に出して確認し合うだけでも、次に同じ場面が来たときの対応が揃いやすくなります。
まとめ
危険を避ける関わりと行動制限の境目は、現場の感覚だけで線引きせず、切迫性・非代替性・一時性という観点で振り返ることが出発点になります。記録を見返し、判断の理由を職員同士で言葉にする場を定期的に持つことが、支援のばらつきを減らす近道です。基礎知識を全員で揃えたうえで、迷いを一人で抱え込ませないチームづくりを進めていきましょう。
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出典・参考
▶ 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)
▶ 障害福祉サービス事業所等における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修動画(厚生労働省)
※制度の取り扱いは改定や自治体の運用で変わることがあります。実際のご対応は指定権者にご確認ください。