強度行動障害への支援、危険回避と行動制限の境目をどう話し合うか
「危険を避ける」がいつの間にか制限になる場面
強度行動障害のある方の支援では、自傷や他害、物の破損といった行動にどう向き合うかが日々の課題になります。危険を避けるための工夫として、居室の物を減らす、外出のタイミングを絞る、特定の職員としか対応しないようにする、といった対応を積み重ねている事業所は多いのではないでしょうか。
こうした対応は、はじめは「今この瞬間の危険を減らすため」の判断だったはずです。ところが時間が経つにつれ、なぜその対応をしているのかが曖昧になり、気づけば本人の行動そのものを制限する形で固定化していることがあります。担当者が変わっても引き継がれ、「昔からこうしているので」という理由だけが残るケースは珍しくありません。
危険を避ける関わりと行動制限は、地続きのところにあります。だからこそ、どこかで「これは制限になっていないか」を確認する機会が必要です。感覚的に「今は仕方ない」と判断するのではなく、切迫性・非代替性・一時性といった観点から、チームで言葉にして確認する作業が求められます。
話し合いの土台をどう作るか
境目を話し合うためには、まず現状を記録として残しておくことが前提になります。いつ、どのような状況で、どんな対応をとったのか。その対応は本人の安全を守るためのものか、それとも職員や周囲の負担を減らすためのものか。この区別があいまいなまま議論を始めると、話し合いは「経験上そうしている」というところで止まってしまいます。
記録に残す項目としては、次のようなものが手がかりになります。
- 対応を始めたきっかけとなった具体的な行動や状況
- その対応をとらなかった場合に想定される危険
- 対応の期間や解除の見通し
- 本人や家族への説明の有無と内容
これらを個別支援計画やモニタリングの記録と結びつけておくと、担当者が変わっても「今なぜこの対応をしているのか」を追いかけられます。逆に、日々の記録がヒヤリハットや申し送りだけで完結していると、対応の理由が個人の頭の中にしか残らず、境目を確認する材料が揃いません。
危険を避ける関わりと行動制限を切り分けて考える視点は、一度身につけて終わりというものではありません。担当する利用者や場面が変わるたびに、同じ問いを立て直す必要があります。こうした基礎的な考え方を職員間で共有するために、すきま時間で読める研修教材を使う事業所もあります。福ひろばラーニングには、強度行動障害への対応や虐待防止の考え方を扱う7分で読み終わるコースがあり、支援会議の前に管理者やサービス管理責任者が受講して、話し合いの共通言語を整えるという使い方も考えられます。
チームで境目を確認する場をつくる
記録が整っていても、それを見直す場がなければ境目の議論は進みません。定期的な支援会議やケース会議のなかに、「今続けている対応は、危険を避けるためか、制限になっていないか」を確認する時間を組み込んでおくことが有効です。
このとき大切なのは、担当職員一人の判断にしないことです。強度行動障害のある方への対応は、現場で直接関わる職員が最も状況をつかんでいる一方、日々の負担を最も感じている立場でもあります。そのため、対応を続けるかどうかの判断が、本人にとっての必要性ではなく、職員の負担軽減に寄っていないかを、サービス管理責任者や児童発達支援管理責任者が別の視点から確認する役割を担う必要があります。
会議では、対応を始めた経緯だけでなく、いつ見直すかもあわせて確認しておくと、対応が固定化しにくくなります。本人や家族への説明状況も、そのつど確認しておきたい項目です。説明が追いついていないまま対応だけが続いている状態は、後から振り返ったときに境目があいまいだったと気づく典型的なパターンです。
まとめ
危険を避けるための関わりは、確認を怠るといつの間にか行動制限として固定化します。記録に対応の理由と見通しを残し、支援会議で定期的に見直す場をつくることが、境目を話し合う土台になります。担当者の感覚だけに頼らず、チーム全体で同じ問いを繰り返し立てる仕組みを持つことが、日々の支援を支えます。
出典・参考
▶ 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)
※制度の取り扱いは改定や自治体の運用で変わることがあります。実際のご対応は指定権者にご確認ください。
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