障がい福祉のBCP、介護保険ひな形をそのまま使うと足りない点

介護保険のひな形をそのまま使ってみた事業所で起きていること

障害福祉サービス事業所でBCP(事業継続計画)を作るとき、まず手元にあった介護保険サービス向けのひな形を流用した、という事業所は少なくないと思います。自然災害編と感染症編に分かれた構成、初動対応のフローチャート、備蓄品リスト。骨組みはほぼ共通していますし、行政のホームページに掲載されているものをベースにすれば、ゼロから作るより早く形になります。

ただ、実際に自己点検や運営指導の準備で読み返すと、「この項目、うちの利用者さんには当てはまらないな」「ここに書くべきことが抜けている」と気づく場面が出てきます。これは作り方が悪いというより、介護保険のひな形が前提としている利用者像と、障がい福祉サービスの利用者像が違うために起きるずれです。

介護保険のひな形は、要介護高齢者が急な環境変化や医療中断に弱いという前提で作られています。もちろんこの視点は障がい福祉でも共通して必要です。ただ、障がい福祉サービスには、身体的なリスクだけでなく、環境変化そのものが強いストレスになる方、意思疎通の方法が個別に確立している方、通所や通学を前提に日中活動が組まれている方など、介護保険のひな形が想定していない要素が数多くあります。ここをそのまま埋めずに提出してしまうと、書類としては体裁が整っていても、実際の災害時には機能しない計画になってしまいます。

利用者特性を前提にした項目が抜けやすい

まず抜けやすいのが、利用者一人ひとりの特性に応じた代替支援手段の記載です。介護保険のひな形は、基本的に「誰が来ても一定の介助ができる」ことを目指した書き方になっています。一方で障がい福祉サービス、特に強度行動障害のある方や自閉スペクトラム症の方を支援している事業所では、環境の急変や見慣れない職員の対応が、それ自体で大きな混乱を招くことがあります。

避難所での環境調整、慣れた道具や絵カードなどコミュニケーションツールの持ち出し、パニック時の対応手順など、個別支援計画に書かれている内容とBCPが連動していないと、災害時に「計画はあるが誰も使えない」状態になります。介護保険のひな形をコピーしただけでは、こうした個別性への言及がすっぽり抜け落ちてしまいます。

次に多いのが、日中活動の継続に関する項目です。就労継続支援や生活介護では、生産活動や日中の活動そのものが利用者の生活リズムを支えています。介護保険のひな形にはデイサービスの再開手順は書かれていても、工賃が発生する作業や、学校と連携した日課の位置づけまでは想定されていません。児童発達支援や放課後等デイサービスであれば、学校の休校・再開状況との連携、保護者への連絡ルートの整理も欠かせない項目になります。ここも介護保険のひな形にはない視点です。

職員体制と専門職の代替をどう書くか

もう一つ見落としがちなのが、専門職の代替体制です。介護保険のひな形では、介護職員やケアマネジャーの欠勤時の代替を想定した書き方になっていますが、障がい福祉サービスにはサービス管理責任者や児童発達支援管理責任者、行動援護従業者など、専門性の高い役割があります。これらの職員が出勤できない場合に誰がどこまで代われるのか、代われない業務は何かを、ひな形の穴埋めだけでは整理しきれません。

医療的ケアが必要な利用者を支援している事業所であれば、看護職員が不在になった場合の医療機関との連携手順や、家族への連絡体制も個別に書き込む必要があります。介護保険のひな形にある「医療機関との連携」という一文だけでは、実際に動ける計画にはなりません。

こうした個別性の高い項目を洗い出す作業は、一度作って終わりではなく、職員全体で継続的に見直す必要があります。BCPの内容を研修として伝える際、長い研修時間を確保しづらい事業所も多いと思いますが、福ひろばラーニングでは「読む」形式で7分程度で受講できるコースとして整理しているので、シフトの合間に一人ずつ受講してもらい、あとから受講記録を確認する、という運用にも向いています。BCPの中身そのものを作るのは事業所の仕事ですが、その内容を職員に周知し記録に残す部分は、こうした仕組みを使うと負担を減らせます。

まとめ

介護保険のBCPひな形は骨組みとして参考にはなりますが、障がい福祉サービスにはそのままでは埋まらない項目があります。利用者の特性に応じた代替支援手段、日中活動や通学との連動、専門職不在時の対応など、個別に書き足すべき点を洗い出すことが欠かせません。ひな形をコピーする作業ではなく、自分たちの利用者と職員体制に合わせて中身を作り直す作業として、BCPを見直してみてはいかがでしょうか。

出典・参考

▶ 障害福祉サービス事業所等における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修動画(厚生労働省)

▶ ひな形(例示入り)を活用したBCP(業務継続計画)の作り方(厚生労働省)

▶ 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)

※制度の取り扱いは改定や自治体の運用で変わることがあります。実際のご対応は指定権者にご確認ください。

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この記事の監修
監修者 塙 啓之
塙 啓之はなわ ひろゆき
株式会社はなひろ 代表取締役

介護業界で25年以上、現場・介護施設の管理者・ケアマネジャー(介護支援専門員)を経験。2013年に株式会社はなひろを設立し、福島県でデイサービスなどの介護事業所を運営。一般社団法人 全国介護事業者連盟 福島県支部 副支部長。現場と経営の両方の視点から、福ひろばラーニングの全コース・記事を監修しています。

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