介護保険経験者を迎える新人育成、障がい福祉の前提をどう伝えるか

「経験者だから大丈夫」が裏目に出る場面

介護保険の事業所で数年働いた人が、障害福祉サービス事業所に転職してくることは珍しくありません。管理者やサービス管理責任者からすると、記録の書き方も接遇もひと通り身についているので、研修の負担が軽いと感じるかもしれません。

ところが数か月たってから、「利用者の希望より安全を優先してしまう」「本人より家族の意向を先に聞いてしまう」といった相談が、サービス管理責任者のもとに寄せられることがあります。これは経験者本人の問題というより、介護保険の現場で身についた前提を、そのまま持ち込んでいることが原因であることが多いです。介護保険と障害福祉は、似て見えても目的の置き方が違います。ここをすり合わせないまま現場に出すと、後になって個別支援計画の方向性や本人との関わり方で、小さなずれが積み重なっていきます。

介護保険と何が違うのか、言葉にしておく

伝えるべき前提はいくつかありますが、最初の数日で押さえておきたいのは次の点です。

まず、支援の目的の置き方です。介護保険は要介護状態の維持・改善や重度化の防止が軸になりますが、障害福祉サービスは本人の自己決定や社会参加を支えることが軸になります。できないことを補うという発想だけでは足りず、本人がどうしたいかを起点に考える場面が増えます。

次に、支給の仕組みです。介護保険は要介護度に応じた支給限度額の中でケアマネジャーがケアプランを組みますが、障害福祉サービスは市町村の支給決定に基づく支給量の中で、相談支援専門員のサービス等利用計画と事業所の個別支援計画が連動します。区分や支給量の数字だけで支援の必要度を判断してしまうと、本人の生活のしづらさを見落とすことがあります。

もう一つは、対象となる年齢層とサービスの幅です。介護保険は基本的に高齢者を対象にしますが、障害福祉サービスは児童から高齢期まで幅があり、生活介護、就労支援、グループホーム、児童発達支援など、事業所の種別によって支援の中身がかなり違います。介護保険の「型」をそのまま当てはめにくい構造になっていることを、まず言葉にして伝えておくことが大切です。

最初の1週間で伝える順番を決める

これらの前提は、座学でまとめて説明しても頭に残りにくいものです。新人が実際に場面に出くわしたタイミングで、その都度ひもづけて伝えるほうが定着しやすいです。

例えば、個別支援計画を一緒に読む時間を設け、「ここに書かれている本人の希望は、誰がどう聞き取ったものか」を一緒にたどることで、介護保険のケアプランとの違いを体感してもらえます。また、支援区分の数字だけを見て支援の軽重を判断しないよう、区分と実際の生活のしづらさが必ずしも一致しないことを、早い段階で伝えておくと誤解が減ります。

このとき、口頭での説明だけに頼ると、伝えたつもりで終わってしまうことがあります。福ひろばラーニングのような、7分で読み終わるコースを使って、介護保険と障害福祉の制度の違いを新人が自分のペースで受講できるようにしておくと、口頭説明の抜け漏れを補う形で使えます。管理者やサービス管理責任者が毎回同じ説明を繰り返す負担も減らせますし、新人が後から読み返して確認することもできます。

伝える順番としては、1日目に目的の違い、2〜3日目に支給の仕組みと事業所種別の違い、1週間目に実際の個別支援計画を使った確認、という流れにすると、現場に出てからの戸惑いが小さくなります。一度に全部を詰め込まず、場面に合わせて小分けにして伝えることが、定着の近道です。

伝えた後も、ずれがないか確認する

前提を伝えただけで終わらせず、数週間後に本人がどう理解しているかを確認する場も必要です。個別支援計画の作成や日々の記録の中に、介護保険的な「できないことを補う」発想が残っていないか、サービス管理責任者や児童発達支援管理責任者が一緒に見ていくことで、早い段階で軌道修正ができます。

経験者であることは強みであると同時に、前提のずれに気づきにくいという弱みにもなります。経験があるからこそ、最初に丁寧にすり合わせておくことが、後の支援の質につながります。

まとめ

介護保険経験者は実務の土台があるぶん、障害福祉の前提とのずれに気づきにくい面があります。目的の違い、支給の仕組み、事業所種別の幅という3点を、場面に合わせて早い段階で伝え、数週間後に理解を確認することが大切です。口頭説明を補う形で、読んで学べる教材を併用すると、伝え漏れを減らせます。

出典・参考

▶ 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)

▶ 障害福祉サービス事業所等における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修動画(厚生労働省)

▶ 福祉・介護職員の処遇改善(障害福祉・厚生労働省)

※制度の取り扱いは改定や自治体の運用で変わることがあります。実際のご対応は指定権者にご確認ください。

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この記事の監修
監修者 塙 啓之
塙 啓之はなわ ひろゆき
株式会社はなひろ 代表取締役

介護業界で25年以上、現場・介護施設の管理者・ケアマネジャー(介護支援専門員)を経験。2013年に株式会社はなひろを設立し、福島県でデイサービスなどの介護事業所を運営。一般社団法人 全国介護事業者連盟 福島県支部 副支部長。現場と経営の両方の視点から、福ひろばラーニングの全コース・記事を監修しています。

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