介護事故防止とヒヤリハット、集めた記録を研修に変える方法
ファイルに綴じられたまま止まっているヒヤリハット
ヒヤリハット報告書は、毎月それなりの枚数が集まっているという事業所は多いと思います。転倒しかけた、薬の渡し間違いに気づいた、送迎車に乗り込む際にふらついた。書式に沿って書いて、管理者が押印して、ファイルに綴じる。ここまでは仕組みとして回っています。
問題は、そこから先です。集めた報告書を見返す機会が定例会議の冒頭で軽く触れる程度で終わっていないでしょうか。件数の推移をグラフにして「先月より減りました」で締めくくり、内容の一つひとつを掘り下げないまま次の議題に移る。これでは、せっかく現場が気づいて書いた情報が、記録としては残っても学びには変わっていません。
介護でも障がい福祉でも、ヒヤリハットの収集自体は運営指導や実地指導で確認される項目です。ただ、収集していることと、それを職員の学びに変えていることは別の話です。書かせるところまでは仕組みがあっても、活かすところまで仕組みがある事業所は、体感としてそう多くない印象があります。
集めて終わりになる理由は、分析の甘さより共有の設計不足
なぜ活きないのか。原因を「分析が甘いから」と考えがちですが、実際には共有の仕方に無理がある場合が多いです。
まず、報告書を書いた本人以外がその内容をきちんと読んでいません。会議で読み上げられても、聞き流されて終わります。次に、似たようなヒヤリハットが繰り返し起きているのに、過去の報告と結びつけて振り返る機会がありません。単発の出来事として処理され、傾向として見られていないのです。
さらに、非常勤やパート職員は会議に出ていないことが多く、常勤職員だけの間で情報が回って終わってしまいます。出勤日がそろわない職員にどう伝えるかという課題は、ヒヤリハットの共有にもそのまま当てはまります。
そしてもう一つ、書いた職員が「報告書を出したら終わり」という感覚を持ってしまうことです。原因を突き止めて対策を立てるところまでフィードバックが返ってこないと、次第に報告する意欲そのものが薄れていきます。件数が減っていくのは、事故のリスクが減ったからではなく、書かなくなっただけということもあり得ます。
ヒヤリハットを研修の題材に変える流れ
ここからは、集めた記録を研修の題材に変えるための実務的な流れです。
最初のステップは、月ごとに報告されたヒヤリハットを分類することです。転倒・誤薬・誤嚥・送迎中の事故など、種類ごとに束ねます。件数だけでなく、どの時間帯、どの場面で起きやすいかをあわせて見ると、事業所ごとの傾向が見えてきます。通所介護であれば入浴前後や送迎の乗降時、訪問系サービスであれば移動や動作介助の場面に集中しやすいなど、サービス形態によって出やすい傾向は異なります。
次に、傾向が見えた項目を一つ選び、研修のテーマにします。ここで大事なのは、特定の職員を責める材料にしないことです。「誰が書いたか」ではなく「どんな場面で起きやすいか」に焦点を当てて題材化します。実際に起きた場面を抽象化して、状況・要因・対応の三つに整理すると、研修資料として扱いやすくなります。
そのうえで、研修の実施方法を工夫します。全員を一堂に集めて説明する形式は、シフトがそろわない事業所では実施しづらく、非常勤職員が置き去りになりがちです。ここで、読むかたちのeラーニングを併用する事業所も増えています。福ひろばラーニングでは、ヒヤリハットの傾向を踏まえた事故防止のコースを7分で読み終わる分量にまとめており、出勤日に関係なく各自のタイミングで受講してもらえます。受講記録も残るため、誰がいつ受講したかを管理者が把握しやすく、集合研修と組み合わせて使う事業所もあります。
最後のステップは、研修後に同じ場面のヒヤリハットが減ったかを確認することです。研修をやりっぱなしにせず、翌月・翌々月の報告内容を見て、効果が出ているかを検証します。減っていなければ、研修の内容が現場の実態と合っていなかった可能性があるので、題材を見直します。このサイクルを回すこと自体が、ヒヤリハットを「書かせる仕組み」から「活かす仕組み」に変える作業になります。
まとめ
ヒヤリハットは集めることが目的ではなく、集めた後にどう扱うかで価値が決まります。分類して傾向をつかみ、責めずに題材化し、出勤日がそろわない職員にも届く形で研修に落とし込み、効果を検証する。この流れを一度作ってしまえば、毎月の報告書は「ファイルに綴じるもの」から「次の研修の材料」に変わります。地道な作業ですが、事故防止の実効性はここにかかっていると感じます。
出典・参考
※制度の取り扱いは改定や自治体の運用で変わることがあります。実際のご対応は指定権者にご確認ください。
──────────
📚 福ひろばラーニングは、介護・障がい福祉のための研修eラーニングです。法定研修の実施と記録を1か所にまとめ、年間研修計画書と実施記録は管理画面からそのまま印刷できます。1人月220円(税込)。
──────────