ヒヤリハットは責められる記録ではない 次を防ぐために書く理由

書く前に手が止まる、あの瞬間

利用者さんの移乗介助中にヒヤッとした。転倒には至らなかったけれど、あと少しでバランスを崩すところだった。そんなとき、報告書の用紙を前にして手が止まったことはないでしょうか。

「これを書いたら、自分の介助が下手だと思われるんじゃないか」

「上司に呼び出されて、また注意されるんじゃないか」

そう思うと、つい「大丈夫だったから書かなくてもいいか」と流してしまいたくなります。実際、現場では「ヒヤリハット=自分の失敗を記録に残す」というイメージが根強くあります。書けば書くほど評価が下がる気がして、件数を減らしたくなる気持ちも分かります。

ですが、ヒヤリハットの本来の役割は、個人を責めるための証拠集めではありません。同じ場面が繰り返されないように、現場全体で情報を共有するための記録です。この違いを意識できるかどうかで、報告書に向き合う気持ちはずいぶん変わってきます。

何のために書くのか、もう一度整理する

ヒヤリハットを書く目的は、大きく分けて二つあります。

一つは、同じ状況が起きたときに、他の職員が気をつけられるようにすることです。例えば「この時間帯は人手が薄くなりやすい」「この動作の前は声かけが抜けやすい」といった情報は、書いた本人だけでなく、チーム全体の財産になります。

もう一つは、環境や手順そのものを見直すきっかけにすることです。個人の注意力に頼るのではなく、「そもそも危ない配置になっていないか」「手順に無理がないか」を確認する材料として使えます。

つまりヒヤリハットは、「あなたがミスをした記録」ではなく、「次の人がミスをしないための記録」です。書く人が変われば内容も変わりますが、積み重ねていくことで、現場の危ない場所やタイミングが見えてきます。これは一人の反省文では出てこない視点です。

書くときに意識したいのは、「誰が悪かったか」ではなく「何が起きて、何がそろっていなかったか」を書くことです。例えば、「声をかけるのを忘れた」で終わらせるのではなく、「声をかけようとしたが、別の利用者さんへの対応と重なっていた」というように、状況を具体的に書くと、読んだ人が同じ場面を想像しやすくなります。これは誰かをかばうためではなく、事実を正確に残すための工夫です。

記録することと、試験勉強はつながっている

ヒヤリハットの考え方は、介護福祉士の国家試験で問われる内容とも重なっています。事故の原因を個人の注意不足だけに求めず、環境要因や手順の問題として捉える視点は、介護過程や安全対策の分野でもよく出てきます。

試験勉強をしていると、「ヒヤリハットはなぜ重要なのか」「どんな視点で振り返ればよいのか」といった問いに出会うことがあります。現場で実際に報告書を書いた経験がある人は、こうした問題を読んだときに、自分の体験と結びつけて考えられるはずです。逆に言えば、普段の記録を「ただの作業」として済ませてしまうと、試験で問われたときにも表面的な理解で終わってしまいます。

福ひろばラーニングには、介護福祉士国家試験の一問一答が1,000問用意されていて、20問までは無料で受験対策を試すことができます。ヒヤリハットや事故対応に関する問題も含まれているので、現場での経験を振り返りながら解いてみると、理解が深まりやすいと思います。すきま時間に少しずつ読み進められるので、まとまった勉強時間が取りにくい人にも向いています。

受験資格については年数や細かい条件が決まっているので、詳しくは公式の案内をご確認ください。

書くことへの抵抗を減らすために

それでも、「書く」という行為自体に抵抗がある人は多いと思います。忙しい業務の合間に報告書を書く時間を確保するのは簡単ではありませんし、書いたものがどう扱われるか分からない不安もあるでしょう。

もし職場で、ヒヤリハットを書いた人が個人的に責められるような雰囲気があるなら、それは記録の目的が共有されていない可能性があります。本来は、書いた人を守りながら、チーム全体で危険を減らしていくための仕組みです。この認識が現場に浸透しているかどうかで、報告書の質も件数も大きく変わってきます。

自分一人でできることは限られていますが、まずは自分が書くときに「誰かを責める言葉」ではなく「状況を説明する言葉」を選ぶことはできます。そうした積み重ねが、少しずつ職場の空気を変えていくこともあります。

まとめ

ヒヤリハットは、失敗を記録するためのものではなく、次に同じ場面が来たときに誰かを助けるための記録です。書くときは「誰が悪かったか」ではなく「何が起きていたか」を具体的に残すことを意識してみてください。日々の記録と試験勉強はつながっているので、振り返りの時間として報告書に向き合ってみるのも一つの方法です。

出典・参考

▶ 介護福祉士国家試験(社会福祉振興・試験センター)

▶ 令和6年度介護報酬改定について(厚生労働省)

※試験の日程・受験資格・出題範囲は年度によって変わります。必ず公式の案内をご確認ください。

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この記事の監修
監修者 塙 啓之
塙 啓之はなわ ひろゆき
株式会社はなひろ 代表取締役

介護業界で25年以上、現場・介護施設の管理者・ケアマネジャー(介護支援専門員)を経験。2013年に株式会社はなひろを設立し、福島県でデイサービスなどの介護事業所を運営。一般社団法人 全国介護事業者連盟 福島県支部 副支部長。現場と経営の両方の視点から、福ひろばラーニングの全コース・記事を監修しています。

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