強度行動障害のある方への支援、危険回避と行動制限の境目をどう話し合うか

支援の現場で起きている迷い

強度行動障害のある方を支援していると、「これは危険を避けるための工夫なのか、それとも行動を制限しているのか」という判断に迷う場面が繰り返し出てきます。自傷や他害のおそれがある場面で、物を片付ける、動線を変える、職員が間に入る。こうした対応は日常的に行われていますが、どこまでが環境調整で、どこからが行動制限にあたるのかは、現場の感覚だけで決めてしまいがちです。

管理者やサービス管理責任者、児童発達支援管理責任者の立場では、この線引きを現場任せにせず、事業所としての判断基準を持つことが求められます。判断基準がないまま個々の職員の経験値で対応が決まっていくと、同じような場面でも対応がばらつき、結果として本人にとっても職員にとっても不安定な支援になってしまいます。

危険を避ける関わりと行動制限はどこで分かれるか

危険を避ける関わりと行動制限を分ける一番のポイントは、「本人の行動の自由をどれだけ狭めているか」という視点です。例えば、刺激になりやすい物を視界に入らない場所に置く、スケジュールを見通しやすく示す、といった環境調整は、本人の選択肢を広げる方向の支援です。一方で、特定の時間だけ居室の外に出られないようにする、身体を押さえるといった対応は、本人の行動の自由を直接狭めるものであり、行動制限にあたります。

ただし、この区別は言葉にすると明快でも、実際の場面では境目が曖昧になりがちです。危険回避のための声かけが、結果として本人の動きを止める形になっていることもあります。支援者が「危ないから」と思ってとった行動が、本人からすれば自由を制約されたと感じられる場合もあります。だからこそ、一つひとつの対応を「これは環境調整か、行動制限か」と事後的に振り返る仕組みが必要になります。

振り返りの際に大切なのは、その場にいた職員の主観だけで判断を終わらせないことです。危険の大きさ、本人の状態、他に取り得た選択肢があったかどうかを、複数の視点で確認する必要があります。行動制限とみなされる対応をとった場合は、やむを得なかった理由と、次に同じ場面が起きたときにどう対応を変えられるかを、事業所として記録し共有していくことが求められます。

判断を一人に背負わせない話し合いの場をどう作るか

強度行動障害のある方への対応は、現場に入っている職員一人が瞬時に判断しなければならない場面が多くあります。その場の判断を否定するのではなく、事後にその判断を事業所全体で振り返る場を定期的に持つことが、管理者やサビ管・児発管の役割になります。

話し合いの場では、「あのとき危険だったか」だけでなく、「なぜそう感じたか」「他にどんな対応が考えられたか」を具体的に出し合うことが有効です。経験の浅い職員は危険を過大に見積もって行動制限的な対応を選びやすく、経験の長い職員は逆に様子見を続けて対応が遅れることもあります。こうした判断の傾向を職員同士で共有しておくと、現場での判断のばらつきを少しずつ減らしていけます。

こうした話し合いを続けるためには、職員が強度行動障害についての基本的な知識を共通して持っていることが前提になります。行動の背景にある要因の見方や、環境調整の考え方について、職員間で理解の差が大きいと、話し合いそのものがかみ合いません。福ひろばラーニングでは、強度行動障害に関する基礎的な内容を、7分で読み終わるコースとして用意しています。忙しい合間にも受講しやすく、話し合いの前提となる知識をそろえる手段の一つとして使っていただけます。

話し合いの結果は、個別支援計画や支援手順書に反映させていくことも必要です。その場限りの振り返りで終わらせず、次の支援の仕方に落とし込むところまでをセットで考えておくと、同じ迷いを繰り返さずに済みます。

記録に残すことで次の判断材料にする

危険回避と行動制限の境目についての話し合いは、一度結論を出して終わりにはできません。本人の状態や環境は変化しますし、関わる職員も入れ替わります。だからこそ、話し合いの内容とその時点での判断を記録として残しておくことが重要になります。

記録には、どのような場面で、どんな対応をとり、それが環境調整だったのか行動制限だったのか、事業所としてどう評価したかを残します。この記録は、後から別の職員が同じような場面に直面したときの参考資料になりますし、運営指導の場面でも、事業所として行動制限についてどう向き合っているかを示す材料になります。

記録を残す際は、本人の様子や職員の対応を客観的な事実として書くことを意識します。「落ち着かなかった」ではなく、どのような言動があったのかを具体的に書く。「制止した」ではなく、どのように身体や声かけで対応したのかを具体的に書く。こうした記録の積み重ねが、次に判断を迫られたときの手がかりになります。

まとめ

強度行動障害のある方への支援では、危険を避ける関わりと行動制限の境目が曖昧になりやすく、現場の判断だけに任せきりにすると対応がばらつきます。事業所として振り返りの場を持ち、職員の知識をそろえ、判断とその理由を記録に残していくことが、次の支援を安定させる土台になります。一人の職員に判断を背負わせず、事業所全体で考え続ける仕組みを少しずつ作っていきましょう。

出典・参考

▶ 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)

▶ WAM NET(福祉・保健・医療の総合情報サイト)

※制度の取り扱いは改定や自治体の運用で変わることがあります。実際のご対応は指定権者にご確認ください。

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この記事の監修
監修者 塙 啓之
塙 啓之はなわ ひろゆき
株式会社はなひろ 代表取締役

介護業界で25年以上、現場・介護施設の管理者・ケアマネジャー(介護支援専門員)を経験。2013年に株式会社はなひろを設立し、福島県でデイサービスなどの介護事業所を運営。一般社団法人 全国介護事業者連盟 福島県支部 副支部長。現場と経営の両方の視点から、福ひろばラーニングの全コース・記事を監修しています。

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