障がい福祉のBCP、介護保険のひな形をそのまま使うと足りない理由

介護保険のひな形で作った計画書、見直したことはありますか

BCPの策定が義務づけられてから、まず手元にあった介護保険のひな形を使って計画書を作った、という事業所は少なくないと思います。項目立てがしっかりしていますし、災害時の対応や感染症対応の考え方は共通する部分も多いので、土台として使うこと自体は悪くありません。

ただ、そのまま提出用の書類として完成させてしまうと、障がい福祉サービス特有の場面が抜け落ちたまま運用されてしまうことがあります。運営指導で指摘される・されないという話以前に、実際に災害や感染症が起きたときに「計画はあるけど使えない」状態になっていないか、一度確認しておきたいところです。

今回は、介護保険のひな形をベースにしたときに特に見落とされやすい3つの点を整理します。

利用者像の前提が違う

介護保険のBCPは、高齢の利用者が中心という前提で組まれています。避難や移動の際の身体的な配慮、認知症による混乱への対応などが主眼になりやすい作りです。

障がい福祉の現場では、利用者像の幅がもっと広くなります。身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、医療的ケアが必要な方、強度行動障害のある方など、同じ事業所の中でも必要な配慮がまったく異なります。災害時に環境が大きく変わることで、普段は落ち着いて過ごせている方が強い不安や混乱を示すこともあります。避難先の環境変化にどう備えるか、見通しの持てない状況をどう伝えるかは、介護保険のひな形にはほとんど出てこない視点です。

児童発達支援や放課後等デイサービスであれば、保護者との連絡体制も計画に組み込む必要があります。学校や保育所との連携、送迎中に被災した場合の対応など、児童福祉特有の場面も介護保険のひな形には想定されていません。

事業所ごとに利用者の状態像を具体的に書き出し、「この方の場合は何が起きやすいか」「どんな代替手段が使えるか」を一人ひとり検討する作業は、ひな形を埋めるだけでは終わりません。

支援が止まったときの代わりが見つかりにくい

介護保険サービスは、同じ地域に似たサービスを提供する事業所が複数あることが多く、自分の事業所が止まっても別の事業所につなぐ選択肢がある程度想定できます。

障がい福祉サービスは、地域によって事業所の数自体が限られていますし、長年同じ支援者が関わってきたことで信頼関係が築かれているケースも多く、代わりの事業所にすぐ移行できるとは限りません。グループホームの夜間支援が止まれば、利用者の生活基盤そのものが揺らぎます。生活介護や就労系のサービスが止まれば、日中の居場所と活動の両方が失われます。

介護保険のひな形にある「近隣の同種事業所と連携する」という書き方をそのまま当てはめても、実際に連携できる事業所があるかどうかは地域によって大きく差があります。自分の事業所の周辺にどんな社会資源があるか、相談支援専門員を通じてどこまで調整できるかを、ひな形をなぞるのではなく自分たちで洗い出す必要があります。

多機関との情報共有の設計が甘くなりやすい

介護保険では、ケアマネジャーを中心とした情報共有の流れがある程度確立されています。障がい福祉サービスの場合は、相談支援専門員に加えて、学校、医療機関、保護者、場合によっては行政の障害福祉担当課など、関わる機関がより多岐にわたります。

災害時や感染症発生時に、誰に・どの順番で・どんな手段で連絡するかを決めておかないと、情報が一部の関係者にしか届かず、支援の再開が遅れる原因になります。介護保険のひな形にある連絡網の様式をそのまま使うと、相談支援専門員や学校との連携欄が存在せず、結局口頭でのやり取りに頼ってしまうことがあります。

このあたりは、職員全員が同じ理解を持っていないと、いざというときに動けません。福ひろばラーニングには、BCPの考え方を短時間で確認できるコースがあり、7分で読み終わる内容なので、計画書を見直す前の共通認識づくりとして職員に受講してもらうという使い方もできます。計画書を変えるだけでなく、それを使う側の理解を揃えておくことも、実際に機能する計画にするためには欠かせません。

加算の有無や研修の実施回数など、細かい運用の基準はサービス種別や自治体によって異なるため、具体的な要件については指定権者にご確認いただくのが確実です。

まとめ

介護保険のひな形は土台として使えますが、利用者像の幅、代替サービスの見つかりにくさ、多機関との情報共有の複雑さという点で、障がい福祉特有の事情を書き足す必要があります。計画書の体裁を整えることより、実際に起きたときに誰が何をするかが具体的にイメージできるかどうかを基準に、一度見直してみることをおすすめします。

出典・参考

▶ 障害福祉サービス事業所等における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修動画(厚生労働省)

▶ ひな形(例示入り)を活用したBCP(業務継続計画)の作り方(厚生労働省)

▶ 令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)

※制度の取り扱いは改定や自治体の運用で変わることがあります。実際のご対応は指定権者にご確認ください。

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この記事の監修
監修者 塙 啓之
塙 啓之はなわ ひろゆき
株式会社はなひろ 代表取締役

介護業界で25年以上、現場・介護施設の管理者・ケアマネジャー(介護支援専門員)を経験。2013年に株式会社はなひろを設立し、福島県でデイサービスなどの介護事業所を運営。一般社団法人 全国介護事業者連盟 福島県支部 副支部長。現場と経営の両方の視点から、福ひろばラーニングの全コース・記事を監修しています。

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